シノヤマ『写楽』vsアラーキー『写真時代』(後編)【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」20冊目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

シノヤマ『写楽』vsアラーキー『写真時代』(後編)【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」20冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」21冊目

  

 「わかりやすい写真」(1987年9月号)では、ヌードの女性に「谷間」「あそこ」「ふともも」などの部位を示す言葉や「ヌレヌレ」「ムチムチ」などの擬音、「ピンク色の」「むきだしの」などの形容語を打ち出した写植を貼り付けて、「わかりやすく」表現した写真を披露。文章では説明しづらいが、立体を平面に写し取る「写真」というものの真実性に認知的・哲学的な揺さぶりをかける企画もあった。これらはのちに『笑う写真』(太田出版/1989年)として単行本化されているが、その発想と手法には編集者として大いに影響を受けている。

 

上・『写真時代』(白夜書房)1985年10月号「似てる似てる」p132-133、下・同1987年9月号「わかりやすい写真」p108-109より

 

 そして、『写真時代』といえば、やはり「アラーキー」こと荒木経惟の存在を抜きには語れない。篠山紀信が『写楽』の看板であった以上に、荒木経惟は『写真時代』の大看板だった。というより、『写真時代』は荒木経惟のための雑誌だった。末井氏は著書『素敵なダイナマイトスキャンダル』(角川文庫/1984年)の中で、〈僕は最初、この写真雑誌を『アラーキズム』というタイトルにして、荒木さんが責任編集する写真雑誌にしようと思っていた〉と述べている。出発点からして荒木経惟ありきだったのだ。

 事実、『写真時代』には「景色」「少女フレンド」(のちに「少女世界」「少女物語」)「写真生活」という「荒木経惟3大連載」があった。「景色」は、巻頭カラーグラビア的位置づけ。といってもアイドルグラビアのようなものではなく、大股開きの写真もあれば、花や風景や食べ物の写真もある。号によってテーマや構成は違うが、とにかく猥雑なエネルギーに満ちていた。「少女フレンド/世界/物語」は、いわゆるロリータ的な少女をモノクロで捉えたもの(1987年5月号からは「東京ヌード」に企画変更)。四方田犬彦、島田雅彦、小林信彦、山田詠美といった面々の文章が添えられることもあった。「写真生活」は日々撮りまくったスナップ写真を、濃密な活動を綴る日記とともに開陳する。

 ビジュアル的に注目すべきは、「景色」や「写真生活」に見られる、小さい写真をページ全面に敷き詰める手法。「あれはビデオの影響ですよ。当時、裏ビデオが出始めた頃で、初めて見たときに、これは雑誌は絶対負けると思ったの。やっぱりビデオはすごいエロに適してたのね、なんかヌメッとしてて。これはマズイっていうんで、ちょっと動きを入れようかなと思って、そういうコマ写真みたいなのを使うようになったんです」(前出『雑誌狂時代!』)と末井氏が語るとおり、ただでさえ生っぽいアラーキーの写真に、さらにライブ感が加味された。

「あと、写真小さくすると、毛が少し見えてもね、修正してんのかしてないのかわからないぐらい小さくすると、OKだったから(笑)」(同前)とも言うが、よく見ると確かに、本来写ってはいけない部分が写っていることも結構あった。そのコマ写真敷き詰め手法はインパクト抜群で、類似誌(『写真生活』『流行写真』など)はこぞって真似していたものだ。

次のページ「局部をいかにギリギリまで見せるか」

KEYWORDS:

オススメ記事

新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

食堂生まれ、外食育ち
食堂生まれ、外食育ち
  • 新保信長
  • 2024.07.05
メガネとデブキャラの漫画史
メガネとデブキャラの漫画史
  • 南信長
  • 2024.04.25
漫画家の自画像
漫画家の自画像
  • 南 信長
  • 2021.12.03